大量生産された化学繊維の衣服が氾濫する現代の日本において、日本の伝統文化である着物も化学繊維で作られていることは決して珍しくなくなった。
本来、着物は絹や綿などで織られ、軽い化学繊維とは真逆の質感や重厚感があるのが特徴だ。
しかし、扱いが難しい絹や綿の織物は高価な上、敬遠されやすく、廉価で手軽な化学繊維の着物が普及してきたのは自然な流れといえば、そうなのかもしれない。
そんな折、柏屋商事株式会社(岐阜市問屋町)が美濃和紙で作ったという着物が話題を集めている。
布ではなく紙で着物とは、製品として大丈夫なのか、と思う人もいるかもしれない。
それが大丈夫なのだ、いやむしろ布にはない長所があるからゆえに、紙で着物を作ったのだ。
ただし、紙といっても、和紙である、それも美濃和紙なのだ。
おりしも美濃の和紙技術がユネスコの無形文化遺産に登録され、その文化的価値が再認識されようとしている今だからこそ、美濃和紙で着物を作る必要や価値があるのだともいえよう。
そんな美濃和紙で作られた着物にはどのような特徴があるのか。
1つは、吸水速乾性に優れている点だ。
肌の汗をよく吸収し、乾きやすく、衣類がいつまでも湿ったままにならず、サラリとした肌触りで快適なのだ。
2つ目は、接触冷感がある点だ。
肌が美濃和紙の生地に触れると、ひんやりとした触り心地があり、とりわけ蒸し暑い日にはその効果を肌で実感できることだろう。
最後の3つ目は、綿よりも軽量である点だ。
軽やかな夏の和装において、綿のみで作るよりもさらに軽く仕上げられ、ノン・ストレスで着こなせるはずだ。
そもそもなぜ美濃和紙で着物を作ろうという発想が湧いてきたのかというと、こんな経緯があったからだそうだ。
2014年4月、柏屋商事を含めたアパレル企業4社が、それぞれの専門技術とノウハウを持ち寄って「岐阜シャツプロジェクト」を立ち上げた。
江戸期の尾張藩から続く繊維業が盛んな岐阜だからこその流れともいえるが、もう1つのプロジェクト立ち上げの要因は、暑さで有名な岐阜だからこそというのもある。
日本の一大アパレル産地でもあり、猛暑地でもある岐阜が、独自のモノづくりのノウハウで、日本全国を快適に過ごせることができるような新・定番シャツを創り出したいという思いから、まずは美濃和紙100%のシャツが開発されたのだった。
この美濃和紙100%のシャツは、吸水性・速乾性に長け、着た時にひんやり涼しく、この特徴を呉服の分野にも活かすことができないかということで、そこから美濃和紙で着物を作ろうという流れになったのだった。
美濃和紙で作られた着物は、以上の機能面の良さだけでなく、見た目の装いもなかなかの優れものだ。
それもそのはず、岐阜県重要無形文化財「郡上本染」の藍染めが施されているからだ。
郡上八幡にわずか1軒だけ残る渡邊染物店により、反物を藍で染めては乾燥させるのを繰り返すことなんと14回!
ゆえに味わい深い色合いのジャパンブルーに仕上がるのだ。
ここまでくると、美濃和紙で作られた着物は、本来の絹や綿の着物と比べても、決して遜色ない着物であることがおわかりになったかと。
快適で粋な夏を過ごしたい人は、美濃和紙の着物を着るべし。
■岐阜市|着物・呉服・卸の事なら柏屋商事株式会社 ブランド:物語
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