12月25日10時から大阪・関西将棋会館にて将棋A級順位戦6回戦・羽生善治九段(50歳)VS豊島将之竜王(30歳)が行なわれ、同日深夜0時44分、128手で後手の豊島竜王が勝ちを収めた。
この結果、A級順位戦の成績は豊島竜王4勝2敗、羽生九段2勝4敗となり、28年連続でA級(名人に挑戦するために戦う10人のクラス)に在籍する羽生九段がB級1組への陥落の危機にますます直面することになった。
対局は羽生九段先手で戦型は横歩取りに。
羽生九段は飛車を定位置に引き戻さずに戦う「青野流」を採用し、一方の豊島竜王は研究通りの手順なのか、早指しで激しい順に飛び込む。
しかし、昼食休憩に入る直前の38手目で豊島竜王は前例とは異なる桂跳ねの手を指し、以下未知の局面となった。
豊島竜王が盤上中央に桂馬を打ち、羽生九段の陣形を上部から攻めると、羽生玉は受けが難しくなり、羽生九段からしきりに苦悶のつぶやきが発せられるようになった。
この局面におけるコンピュータ将棋ソフトが示す評価値は豊島竜王の勝勢と判定、意外な大差がついているようだった。
ただし、将棋に逆転はつきものであるがゆえに、最後の最後まで勝負の行方はわからない。
終盤へと突入し、75手目の王手を羽生九段はかわしながら四段目に玉を逃げ、羽生玉は「打ち歩詰め」の形となり、相撲に例えれば、土俵際でなんとか押し出しをこらえるような体勢に。
やがて羽生玉に生じていた打ち歩詰めの形は解消され、そのうえ三段目から下段に逃げられる局面へともつれた。
形勢判断ではまだまだ豊島竜王が優勢も、羽生九段が先程よりも差を縮めた格好だ。
羽生九段は豊島陣に角を打ち放ち、なんとか食らいつき、勝負形に持ち込んだ羽生九段。
豊島竜王は3分を使い、もっとも常識的な手と思われる、羽生九段の打った角を取るも、コンピュータ将棋ソフトの評価値はついに大逆転!
豊島竜王勝勢から一転して、羽生九段優勢へと転じたのだった。
だが、今年、何度も大逆転劇を演じてきた豊島竜王もまた84手目に攻防の角を打ち放つ。
豊島竜王はついに持ち時間6時間を使い切り、1手60秒未満で指す「一分将棋」に追い込まれるが、粘って簡単に土俵を割らない。
羽生九段の残り時間も少々となるも、113手目に相手の角を取り、勝ちを決めに行った。
ところが、勇気を出して踏み込んだと思われる手だったが、またまたコンピュータ将棋ソフトの評価値は逆転。
終盤戦で形勢が二転三転し、羽生九段もとうとう持ち時間を使い果たし、両者ともに「一分将棋」に。
「50秒、1、2、3、4,5、6」と秒読みに追われながら羽生九段が指した手は、2番目の候補手として評価された手であったにもかかわらず、やはり最善手ではなかったために、コンピュータ将棋ソフトの評価値は「豊島竜王の勝率94パーセント」。
羽生九段は第2候補の手を指しているのに、逆転を許したことになる。
ところがところが、128手目に豊島竜王が指したのは、歩を突いての王手ではなく、これまた第2候補として評価されていた金を取る手で、この手によりコンピュータ将棋ソフトの評価値は「羽生九段、勝率95パーセント」。
勝率表示だけで判断すれば、またまた逆転だ。
しかししかし、羽生九段はコンピュータ将棋ソフトの評価値が勝ちの局面で投了したのだった。
人間同士が対局しているがゆえの結末とも言えよう。
AI同士の対局ならば、羽生九段が投了した局面では最善手を指し、勝ちを収めたことだろう。
でもそういう将棋が面白いのかというと、話は別だ。
将棋を指す人間の心理状況や体調面が対局に及ぼすから、ドラマチックな展開が生まれ、喜怒哀楽も生まれたりするのだ。
この一局で羽生九段の評価が下がるわけではないし、むしろハラハラドキドキの二転三転する展開を観ることができただけでも将棋ファンとしては楽しいのだ。
けれども個人的には、羽生九段に勝ってほしかった。
B級1組への陥落だけは免れてほしい。