モッチリ感や粘り気を追求してきた日本のコメ
現在、我々日本人が頻繁に食するコメの品種は、「コシヒカリ」や「あきたこまち」、または「ひとめぼれ」だったり、「ゆめぴりか」などが多いのではなかろうか。
これらのコメに共通するのは、モチモチした食感や、水分を含んだ粘り気のある粒であるかと。
こうした特性は、タイ米に代表される、アジアに多く分布する、パサパサした食感のコメとは対極に位置する。
近代日本におけるコメの進化は、このようなパサパサ食感とは対極の、モッチリ感や粘り気をいかに上手に出せるかに懸けてきた歴史であるともいえよう。
栽培が難しく、モチモチ食感・粘り気が足りないがゆえに廃れたササニシキ
一方で、そうしたコメの進化・変遷において廃れてしまったコメの品種も存在する。
そのコメの品種とは、ササニシキだ。
かつてはコシヒカリと人気を二分する大人気品種であったササニシキは、ピーク時の1990年時点における作付け面積が207,438ha(ヘクタール)に達し、まさにコシヒカリに次ぐ第2位の作付け面積を誇っていたのだ。
しかし、それ以降は年々生産量が減少し、現在におけるササニシキの作付け面積は僅か0.4%にまで激減してしまった。
なぜコシヒカリと人気を二分する大人気品種であったササニシキは、ここまで廃れてしまったのだろうか?
それはササニシキ自体の持つ特性ゆえにある。
まず1番目として、ササニシキは茎が細く弱いため、暴風や台風等を受けると倒れやすいのが弱点として挙げられよう。
その上、いもち病への抵抗性に弱いことや冷害に弱いことで、栽培が一筋縄でいかず、生産量にロスが生じやすいこと、つまりは稲作農家の収入減少につながることも弱点として挙げられる。
実際、1993年の冷害ではササニシキは甚大な被害を受け、この時をきっかけに冷害に強い品種の「ひとめぼれ」へ転換され、ササニシキの作付面積は大幅に減少していった。
これら以外のササニシキが廃れてしまった原因としては、冒頭で書いたようなモチモチした食感や、水分を含んだ粘り気のある粒を好むように消費者の嗜好が変化したことも挙げられる。
ここまでをまとめると、ササニシキは気候条件への適応力が他の品種に比べ弱いことや、モチモチ食感や粘り気の多いコメを消費者が望むようになったことが、ササニシキが廃れていった理由といえる。
少ない粘り気とあっさり食感で、寿司のシャリに最適なササニシキ
こうしたモチモチ食感や粘り気の多いコメに差を広げられてしまったササニシキだが、裏を返せば「コシヒカリ」や「あきたこまち」と比較すると、粘り気が少なく、あっさりとした食感で滑らかな喉ごしが良い品種のコメともいえる。
そのため、寿司酢を入れてかき混ぜても、コメがベタベタしないササニシキを好んで使う寿司職人も少数ながらいまだに存在し、店によっては「当店のシャリはササニシキ使用」を前面に押し出し、セールスポイントにしている寿司屋さんもあるくらいだ。
さらに、ササニシキはコシヒカリとは異なり、口の中でやわらかくほぐれる点が寿司のシャリに向いており、また、和食との相性が良いのだ。
ササニシキはヘルシーな品種のコメでもある
コシヒカリをはじめとする、強い粘り気のコメに比べ、ササニシキはアミロースという物質を多く含んでいるため、食後における血糖値の上昇が緩やかになるといわれている。
したがって、ササニシキは糖尿病リスクのある人や、アトピーの人に適しているのではないかといった可能性が広がるコメなのだ。
最後に
かつての日本の、どこの家庭でも普通に食べられていたササニシキは、現在では生産量の激減でレア感が強まり、庶民には手の届かないコメになってしまった。
しかし、見方を変えれば、ササニシキの「第二の人生」がスタートしたようなところもあるかと。
大衆消費のコメから、寿司のシャリに最適なコメとして、近年では脚光を浴びているのだから。
廃れてしまったから、もう時代遅れなんだとか、ダメなんだ、という短絡的な決めつけをすることなく、その性質や本質をしっかりと見極めたうえで、あらためて適材適所に配置するような視点も重要だなと、ササニシキを通じて感じた次第だ。