今年の11月6日は松田優作の33回忌。
松田優作が他界してから、もうそんなに時が経つのかと。
松田優作の遺作はハリウッド映画『BLACK RAIN』。
狂気に満ちたヤクザ・佐藤を演じ、まだ日本にはこんなに素晴らしい俳優がいたのかと世界が松田優作の演技に刮目した。
確かに『BLACK RAIN』における松田優作は、共演したマイケル・ダグラス、アンディ・ガルシアに決して引けを取らない存在感があったし、『BLACK RAIN』終盤でのバイク逃走シーンはスタントマンを使うことなく、松田優作自身がこなした。
だが、オールド・ファンからすると、映画自体の完成度はともかく、やはり『遊戯シリーズ』の3部作と『俺達に墓はない』における松田優作が好きだったりするのだ。
スナイパー稼業の男・鳴海を演じる松田優作は、真面目にストイックな主人公をブレることなく真っ直ぐに演じ、申し分なく完成されたフィギュアのような佇まいさえ感じる。
一方で『俺達に墓はない』では随所に散りばめられたコミカルなシーンと、弟分役の岩城滉一とのやり取りが、『遊戯シリーズ』3部作とは異なる松田優作を上手に引き出している。
この2つの作品カラーが、硬軟のメリハリが利いた刑事ドラマ『探偵物語』での工藤刑事及びストーリー展開に繋がっていったのではないかと都合よく筆者は解釈している。
現実の世界では、『探偵物語』の工藤刑事のような刑事がいるはずもなく、だからこそこの『探偵物語』で新スタイルの刑事役を実験していたのではないかとすら思えてくるのだ。
前例がないものを誰よりも先にやってやろうという開拓者精神は、故・石原裕次郎さんと重なる部分があるなとも。
これら以外では、伝説の刑事ドラマ『太陽にほえろ!』でのジーパン刑事役も絶対に外してはならない松田優作の遺産だろう。
助けたチンピラに拳銃で腹部を撃たれ、掌に付いた己の血を見つつ叫んだ「なんじゃあ~、こりゃ~!」。
気丈な長身刑事も死を直前にして人間としての弱さを吐露してしまい、でも最後のタバコ一服で余裕をかますという、ある意味において「やせ我慢の美学」を見せているようにすら取れるシーンだった。
映画やドラマが好きだからこそ演者として最高の演技を見せたいし、妥協したくない。
それゆえに、監督をはじめとするスタッフ達との衝突も厭わなかった松田優作。
今でも語り継がれる存在だし、熱狂的な信者がいるのは、そういう真っ直ぐな松田優作だからこそなのだ。