全医療費の3割だけ負担すればいい国民皆保険制度
現在の日本では、病気や怪我で病院にかかると、医療費の負担額は3割だけで済み、残りの7割は国の負担となる国民皆保険制度を実施している。
国民の誰もが、診察時に保険証を提示さえすれば、この恩恵を受けられるシステムは、実にありがたいものと我々日本国民は自覚しなければならない。
それというのも、全医療費の3割だけを負担すれば、診察・治療をしてくれる国は、世界的にみればそう多くはないからだ。
アメリカでさえ自国民の医療負担額は10割。
ゆえに日本でならば大金を必要としない盲腸手術も、アメリカでは100万円単位の治療費がかかるのだ。
しかし、この国民皆保険制度、TPPあるいは日米FTAを締結したら、影響をダイレクトに受けてしまうのだ。
国民皆保険制度を骨抜きにするTPP・日米FTA
結論から言うと、TPPにしろ日米FTAにしろ、日本がこれらいずれかに締結すると、国民皆保険制度が骨抜きにされる。
つまり最終的には、現在3割負担でいいのが、アメリカ並みの10割負担となるのだ。
なぜ国民皆保険制度を骨抜きにして、10割負担を実現させようとするのか?
この背景には、アメリカの生命保険会社(以下文中ではアメリカ生保)の思惑がある。
アメリカ生保にとっては、日本の国民皆保険制度が参入障壁なのだ。
それはすなわち、国民皆保険制度がなければ、アメリカ生保は日本で思う存分に稼げるということを意味する。
ではなぜ、国民皆保険制度がなければ、アメリカ生保は日本で思う存分に稼げるのか?
その説明をする前に、まずは現在のアメリカの状況を説明しなければならない。
現在のアメリカは前述したように10割負担のため、大病や大怪我になったら、莫大な金額の治療費が当事者にのしかかってくる。
家庭によってはその莫大な金額を支払うことができない。
そこでアメリカの生命保険会社の登場である。
毎月掛け金を生命保険会社に支払えば、万が一、大病や大怪我になっても、保険金が降りるというわかりやすいシステムだ。
これはちょうど自動車保険に例えるとわかりやすい。
世の中のほとんどのドライバーは自賠責保険と任意保険に入っているはずである。
それというのも自賠責保険だけでは、万が一大きな事故に遭遇した場合、降りる金額が少ないからである。
だから、ドライバー各個人が自賠責保険以外に別途、任意保険にも入っていることが多い。
まさにこの自動車の任意保険と同じことで、国民皆保険制度の健康保険だけでは治療費が払えないから、アメリカ生保の医療保険に入れば、大病や大ケガになった時に治療費が降りる、というシステムに組替えようとしているのだ。
自動車の任意保険だと、交通事故を起こしたドライバーの保険料が高くなるように、病気や怪我でアメリカ生保の医療保険を使った人は、翌年からの月々の医療保険料が高くなる、という方式を採用すると見られている。
こうした毎月の掛け金を日本国民からむしり取りたいから、国民皆保険制度を撤廃せよとアメリカは日本に圧力をかけているのだ。
TPP・日米FTAが日本国内の法律や制度、文化、慣習等よりも上位に
アメリカが、日本の国民皆保険制度を取っ払って、アメリカ生保に毎月掛け金をするシステムは、アメリカの内政干渉だと反論しても、TPPあるいは日米FTAを一旦締結してしまえば、内政干渉云々は全く意味のないものとなる。
というのも、「TPPまたは日米FTAに反する国内法は改正せよ!」というのがTPPまたは日米FTAなのだから。
つまり日本国内の法律や制度、文化、慣習等よりもTPPや日米FTAが上位に位置し、統制することになるのである。
したがって、国民皆保険制度に関する国内法の改正を日本政府が拒んだならば、ISD条項(※1)に則ってアメリカ生保企業から提訴され、その場合はほぼ100%の確率で日本政府は敗訴となるだろう(※2)。
「自由貿易」、「グローバリズム」とは何なのか?
一般的にはこれまでに延べてきたアメリカ主導のTPPや二国間によるFTA(自由貿易協定)は関税の引き下げにより、これまで以上に自由な貿易が促進されるかのような部分だけが大きく一部のマスコミによりクローズアップされてきた。
しかし、それはTPPやFTA(自由貿易協定)全体のうちのわずかな部分に過ぎない。
大部分は、今回取り上げた国民皆保険制度の骨抜き・崩壊のようなリスクを孕んだものなのだ。
TPPやFTA(自由貿易協定)の正体は「自由貿易」、「グローバリズム」という名の下に、競争力のある多国籍企業を多く抱える大国にとって有利に機能する経済システムに過ぎないのだ。
※1 ISD条項:ISD条項とは「投資家対国家間の紛争解決条項」(Investor State Dispute Settlement)の略語。主に自由貿易協定(FTA)を結んだ国同士において、多国間における企業と政府との賠償を求める紛争の方法を定めた条項。
※2 ISD条項における裁判では、アメリカ企業の66勝0敗というデータもあり、極めてアメリカ企業有利の偏った裁判といえよう。この背景には、裁判官が公表されておらず、いわゆる仲間内でのローテーションで担当されているといわれている。