扇子と並び、涼をとるアイテムとして欠かせないのが団扇。
一口に団扇といっても、日本全国至る所で様々な団扇が作られており、中でも京都で作られる京団扇は気品があり、評判が良い。
今回は、この京団扇について取り上げる。
涼をとるアイテムだけでなく、美術工芸品でもある京団扇
京団扇は別名「都(みやこ)団扇」ともいい、各時代における人々の生活に密着しながら、単に涼をとるアイテムとしてだけでなく、優れた美術工芸品として我々の目を楽しませ、生活に華やかさと潤いを与えてきた。
そこには、京都の千余年に渡って育まれてきた、豊かな風土と文化・歴史がある。
今日まで伝承されてきた、京都の伝統工芸品としての高度で繊細優美を極めた技術が散りばめられているのだ。
一方で、京団扇は伝統の上に胡座をかいているのではなく、現在も作り手たちによる新しいデザイン感覚が吹き込まれ、常に「最先端」の京団扇が作られていることも見逃してはならない。
因みに「京団扇」の名称は、京都扇子団扇商工協同組合の登録商標(地域団体商標)のため、京都扇子団扇商工協同組合員以外の使用は認められていない。
京団扇の始まりは、南北朝時代にもたらされた朝鮮団扇
京団扇の始まりは南北朝時代といわれている。
当時、明や朝鮮半島を荒らし回っていた倭寇の海賊らによって、西日本にもたらされた朝鮮団扇が、紀州、大和を経て、京都貴族の別荘地であった深草に伝承されたのが、京団扇の始まりといわれている。
京団扇の基本的な特徴である挿柄
京団扇の基本的な特徴である挿柄は、柄が中骨と一体ではなく別々に作られ、後の工程で柄を取り付ける構造だ。
この挿柄は、南北朝時代にはまだ存在しておらず、京団扇独特の構造として定着したのは江戸時代以降とみられ、土佐派、狩野派といった宮廷の御用絵師が絵を描いた「御所団扇」が始まりとされ、以後一般にまで広がっていったと考えられている。
京団扇の製作工程
京団扇は、上質の割竹の上端に刻みを入れ、割った細骨を1本づつ放射状に並べ、箔、手彫り、手描き・木版画等で加飾した表紙を張って、竹へらで骨の両際に筋を付けて、各種の型に化粧断ちし、周囲に細い薄紙を巻いて、最後に柄を差し込み、完成する。
製作工程は大きく分け3工程、細かく分けると16もの工程になる。
団扇骨加工
1.胴切
2.割竹
3.巾揃え
4.厚さ揃え
5.きざみ
うち骨の上端に刻みを入れる作業工程。
6.もみ
竹の繊維を応用し、刻みを揉み広げる作業工程。
上端に刻みを入れたものを竹の繊維に沿って、左右交互に揉み割りしてゆく。
7.へぎ
必要な厚さにまでさらに薄く削ぐ作業工程。
団扇紙加飾
8.手描き・木版・染め・はり絵等
裏張り加工
9.仮張
薄い紙に細竹を糊付けする作業工程。
10.裏張
11.めくり
仕上げ加工
12.合わせ
表の紙を貼る作業工程。
13.念付け
細竹の両面に団扇紙が貼られた後、念ベラを用いて団扇骨の際(きわ)に筋をつけてゆく作業工程。
14.元板付け
柄を差す部分に布、または厚手の紙を貼る作業工程。
15.なり廻し
団扇の形に成型する作業工程。
16.へりとり
念付けの終わったものを一定の形に切った後、周囲に薄い紙を貼り、補強する作業工程。
これに柄を差すと完成。
美しいものを観ると、一瞬でも暑さを忘れる!
ここまで京団扇を取り上げてみたが、なぜ風を煽る団扇ごときにも美術的要素を織り込むのか、と思う人も中にはいるはずだ。
最低限、実用面さえクリアできれば、もちろん素の団扇でも問題ないじゃないかと。
しかし、あえて美術的要素を加えることによって、鑑賞可能になり、すなわち綺麗な団扇を観ている間は、しばし暑さを忘れることができるのだ!
京団扇にその効果があるのは、ここまでお読みになった人ならば、もうおわかりだろう。